急制動の技術

二輪のブレーキというものは、現在もほとんどの車両で前後輪が独立したブレーキであるために、クルマに比べどちらかというと難しい操作が必要です。しかも、ブレーキのミスが即転倒という危険も持っており、その難しさもあります。比較的操作の楽なABSなどの装備がされているものも一部の車種に限られるということが言えます。

最近では左ブレーキレバーを握るだけで前後ブレーキが適切な配分で作動する「コンビ・ブレーキシステム(前・後輪連動ブレーキシステム)」や「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)」、ABS機能を融合した「コンバインドABS」スーパースポーツモデル用電子制御式“コンバインドABSなどさまざまな豪華ブレーキを奢った車種が出てきています。

しかし、ABSとは言えども制動距離を短縮させるためのシステムではありません。運転者のブレーキ操作を補助することしかできないのです。ABSを装備していない車両同様コーナーなどの手前では十分な減速が必要であり、無理な運転までは制御できません。

結果的に同一車種のABSのある物と無い物で、急制動時の制動距離を比較したところ制動技術を訓練した者が実施した場合、ABSのない車両の方が短い距離で停止した実験結果もあります。
さて、急制動などの操作時のブレーキ配分に関してですが、よく前輪7:後輪3なんて言われていますが、私はそんな配分を考えて操作したことなどありません。

私の場合、前輪10:後輪10になります。つまり、双方のブレーキとも100%の力を掛けるブレーキを心がけています。100%のブレーキとはロックする直前のスキール音が出る直前くらいのブレーキです。つまり、7:3のブレーキとは根本的に考え方が違います。

通常コーナーリング中の前輪ロックは転倒に直面します。しかしここでABSが付いている車種は転倒までの時間が少々かかるので回復しやすいです。ただ、ブレーキレバーのキックバックの振動と共に確実に倒れこんでいきます。

ただ、ABSに頼ったブレーキをするようになってしまえば、このシステムのない車両は乗れなくなりますし、そもそもABS以上の性能は出せなくなるでしょう。
ブレーキの訓練とは、限界にチャレンジの訓練ではありません。まず、限界を超す訓練からです。どこがロックするポイントなのか。そのような姿勢のときに前輪及び後輪は、それぞれどのくらいブレーキを掛けられるものなのか。

そして、ロックした状態はどのような世界なのかを知って、どうすれば回復できるのかを訓練する必要があります。教習所やあまり研究されていない指導員が後輪がロックしたらすぐにブレーキを離すなどと指導していますが、一概にそうとは言えないことが分かると思います。

後輪ロックにて横方向のスライド量が大きい場合は、ロックをさせたまま車両を立ててからブレーキを解除するか、ロックさせたまま停止に持っていく方が安全でしょう。そうでもしなければブレーキングハイサイドを起こすでしょう。

前輪ブレーキの場合、車体が直立した状態で一気にロックして完全にタイヤの方向性を失わせると、右か左に一杯にハンドルが切れますが、しばらくは真っ直ぐ走ることがあるようです。しかし、速度低下と共に車体が傾こうとするので、速度が低下する前に前ブレーキを解除する必要があるでしょう。
これらのことを実感できるような訓練を繰り返し、ようやく最適のブレーキ、双方のブレーキとも100%の力を掛けるブレーキが見つかるように思うのです。またこれを見つけるためにABSは邪魔な装備という部分もあります。しかし、あっても損はないという安全装備ともいえます。これは乗り手の考え方で必要性が決まるでしょう。

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