オートバイの特性
1、二輪車の不利な部分
これは過去、二輪車の教習に携わっていたときに、さんざん言ってきた内容ですが、自分自身も忘れないようにするためや、ご覧頂いた方に再確認していただきたい事項として掲げます。
(1)道路交通における他の車両に比べ、車体が小さいため、見落とされやすい。
(2)車体が小さいため、自動車などのバックミラーの死角に入りやすく巻き込まれなどの危険が高い。
(3)身体でバランスをとって乗り、低速時にバランスを崩しやすいため運転者の体力的負担が大きい。
(4)路面の状況に注意が奪われやすく、四輪車などに比べ、横方向の視野が狭くなる。
(5)四輪車などと比べ、危険回避能力が低い。
(6)前後が独立したブレーキの物が多く、急制動時など、運転者の高い技量が求められる。
(7)転倒時、運転者が負傷しやすい。
(8)降水時など、晴天時に比べ極端に視界が悪くなり、運転操作も難しくなる。
一般的に、「バイクは危ない。」と言われる方が多いのですが、それはこういった不利な特性による部分ではないでしょうか。長年乗ってきた私が考えてもこれらの注意点は考えておかなくてはならない部分だと思います。ベテランの方々はこうしたことを当たり前のこととして考えているので、これらのことに関する注意が出来ていると思うのですが、まだ運転経験の浅い方などはもう一度再確認をしていただきたい部分でもあります。
二輪車の不利を知っておきながら、漫然と運転するのではせっかく不利な部分を知った意味がないでしょう。では具体的にどうしたらいいのでしょうか?
道路における運転は、まさに千差万別で正解と呼べる回答はないでしょう。例えば自分の進行方向の右から車が飛び出してきたときの対処方法一つとっても、左に回避するのが正解とは言えません。飛び出した車の状況などから、右方向に回避するべき場合も出てくると思います。
このため、非常に曖昧な表現になるかもしれませんが、私自身の注意している事項なども含め、考えていきたいと思っています。
2、車体が小さいことによる不利をどうするか
車体が小さいことはどうにも改善できるという要素ではないので、やはり走り方を工夫するべきだと思います。車体が小さいのだから近くを走行する四輪車のバックミラーなどの死角に入らない走り方など、普段の自分自身の走行位置をもう一度考え、改善できるところはあらかじめ改善すべきだと思います。
また、車体が小さいということは他の交通や歩行者から見たときの距離の目測、速度の目測を取り辛いという部分を二輪車自身が知っておき、交差点などの通過時には、対向右折車などの急な右折行動などに供えた速度の調整や、歩行者や自転車の飛び出しに対し対応できるような走行を心がけなくてはならないと思います。
では、具体的な走行速度はどうすべきなのでしょう。普段何気なく通っている道路で色々な危険場面の想定をしてみてください。法定速度、規制速度の意味が分かるようになれば、何故守らなくてはならないかが見えてくるかもしれません。
また二輪車に乗る人は対向する他の二輪車の見え方なども観察してみると、自分が他の交通からどのように見えているか分かりやすい思います。赤信号などで停止したとき、交差点の対向車の二輪が、普通二輪なのか大型二輪なのか分かり辛いこともよくあると思います。つまり、他の交通からはそれほど曖昧な見え方にになっているのです。
ましてや、対向車として接近する二輪車の速度感などはどうでしょうか?かなり接近してからではないと概ねの速度は見えてこないこともあります。では、バイクに興味のない人がこの状況を見たときどのように判断するでしょう。
相手から見え辛く、また相手からはどう見えているのか。小さな車両ですから、そんなことを考えた運転を心がけていくといいのではないでしょうか。それが小さな車体の不利を知った運転になっていくのだと思います。
3、バランスの悪さをどうすべきか
四輪車などの自動車と比べ、二輪車のバランスは言うまでもなく、停止時などは何らかの補助がない限り、二輪車は自立していることも出来ない不安定な乗り物です。
そのため、低速走行時の安全確認というものが非常にし辛いものです。考えてみれば私も1本橋など走行中に他の交通の状況を把握するのは至難の業です。ということは、一般道路での徐行時のに安全を確認するというのは難しいということが言えるのではないでしょうか。
運転行動の基本要素となっているのが「認知」「判断」「操作」の3つです。また事故の原因となっているのは8割程度が「認知」のミスと言われています。つまり、二輪車に乗る側は確認もおろそかになりやすい部分があるということも知っておかなくてはならないでしょう。
では、このバランスの悪さを克服し、安全確認などしっかり行うためにはどうしたらいいのでしょう。一つは自分自身の訓練によって低速バランスをしっかり練習し、低速時に確認をする余裕を持つという方法があります。しかし、低速バランスの技術はすぐに習得できるものではありませんから、まずは「停まって確認」ということをお勧めします。
このため、発進、停止時の操作がいつも安定して出来るよう練習していく必要があると思います。発進停止が安定して確実に出来るということは、安全運転を考えていくにあたっては非常に大切なことのよう思います。どうしても停まったり発進したりするのは二輪車の操作的に面倒くさいことかもしれません。でもこういった部分を努力するということは誰にでも出来ることではないでしょうか。
4、視野の特性をどう考えるべきか
走行中の二輪車は一般的に路面の状況に影響を受けやすいので、走行中の四輪車の視野の範囲と比較すると、縦長の視野となることが指摘されています。このため、四輪車の運転に比べると視界の横方向の物に対する発見が遅れることが多くなるのです。
このため、急な横断歩行者や、見通しの悪い交差点などから急に飛び出してくる車などに対しては、四輪車以上により注意が必要となってきます。
また、二輪車の運転は法律によってヘルメットの着用が義務付けられています。視界=ヘルメットの形状ということはないのですが、多少影響はあると思います。脱線しますがここではヘルメットの話を中心にさせていただきたいと思います。
ヘルメットのタイプには半キャップタイプ、ジェット型(オープンフェイス)の他、フルフェイス型などの重装備の物もあり、それぞれ視野は変わってきます。
視野が一番広いのは半キャップのタイプですが、正直なところ私からはこれはお勧めしません。まず、走行速度がある程度出ると、風圧などで視界が非常に狭くなります。また、何よりヘルメットの最大の役目である頭部の保護という部分で効果が薄いということがあるからです。
事故や転倒などで人間の頭部の保護は顔面や側頭部も非常に大切であるにもかかわらず、半キャップの物はこの部分について全くといっていいほど保護がされません。救命救急士の嘆きを耳にしたことがあります。「もう少し頭部を保護されていれば亡くなることはなかったのに・・・」そんな話を聞くたびに保護効果の低い物は決して購入してはならないと思います。
では、ジェット型(オープンフェイス)はどうでしょうか。概ね側頭部までの保護は出来ているようですが、顔面の保護という部分で疑問が残るよう思います。アライやショウエイなどの高価なヘルメットは顔面の部分を硬度の高いシールドで守ってくれるという部分がありますが、シールド無しのものでは事故の際、顎の骨を骨折したり、前歯をなくしたりするケースを見たことがあります。
最高の保護機能を持ったヘルメットがフルフェイスという、顎まで坊体で保護された物です。レースなどのサーキット走行ではこのフルフェイス型が義務付けられており、頭部顔面の保護に関してはこれ以上のものはないでしょう。ただ、この欠点として視界の悪さが挙げられます。道路を走行する際に必要な危険発見など慣れれば問題は無いのかもしれませんが、道路を走行するプロライダーの白バイさんもフルフェイスは使用しません。
私は通常の使用ではアライのジェット型を使用しています。危険発見に役立つ広い視界と、高い頭部の保護機能が気に入っているからです。過去、このヘルメットで競技走行時に転倒し、顔面を強打した経験がありますが、シールドの硬度のためか、顔面は一切無傷で済んだ記憶があります。様々なタイプを使用してみたのですが、現在のところ一番気に入ってます。
認知ミスによる事故は事故全体の8割を占めるようです。万一のときの頭部の保護も非常に大切な部分ですが、万一の事態に近づかないような視界の広いヘルメットというのも捨て難いものです。また、どんなに優れたヘルメットでも格好が悪い物は嫌ですよね。さて、皆さんはどんなヘルメットを選択をされるのでしょうか?
5、危険回避をどう考えるか
四輪車などに比べると二輪車は機動性に優れており加速も良いものが多く、思いどうりの走行がしやすいイメージがあります。しかし、低速ではある程度思い通りに動かすことができる二輪車も、速度が上がるにつれて非常に動きは鈍くなります。特に高速道路走行中などは落下物は相当手前から発見していない限り、回避はできなくなります。
現在の二輪車の教習制度の中には「危険回避」という内容があり、時速30キロや40キロからの回避操作を体験してもらう内容なのですが、特に教習生などの運転に慣れていない人などは、まともに回避が出来なかったり、回避する方向を間違えてしまったりという方も多くいました。逆に運転経験を積んでいても、回避操作は非常に難しいものであるように思います。
危険の回避が難しいということですから、具体的には周囲の見方をどうすればいいのでしょうか。やはり、出来るだけ先のほうの情報を取りつつ、様々な危険予測や危険発見をしておかなくてはならないと思います。
しかし、ある程度運転経験を積んでこないと、なかなか危険を発見できなかったり、危険を予測できない部分もあるように思います。ということは、他の交通にできるだけ接近しないような運転や速度を控えめにした運転、をしていかなくてはならないかもしれません。運転に少し慣れてきた頃にもう一度、自分の運転について危険に近づいている部分がないかどうか考えてみたいものです。
6、二輪車のブレーキ装置
ある教習所の指導員が二輪車のブレーキは4つあると言ってました。前輪ブレーキ、後輪ブレーキ、エンジンブレーキ、心のブレーキだそうです。確かに初心者に教えるときにはそんな内容でもいいかと思うのですが、既に免許を取得した方には、前後輪のブレーキについて良く考えていただきたいと思っています。
ところで二輪車は何故ブレーキ装置が前輪と後輪に分かれているのもが多いのでしょうか?教習所や運転免許試験場のクランクを通過する時は後輪ブレーキだけを使用した方が良いと言われています。
二輪車は旋回時にバンク(傾斜)がつき、遠心力が働くので、旋回時に使用できるブレーキ量が直進時のブレーキと比較して大きく変化するという特性を持っています。特に前輪ブレーキに関してはハンドルの切れ角や車体のバンク角にも影響を及ぼすので、旋回時の前輪ブレーキの使用はある程度の技量がないと難しいと思います。
前輪と比較すると後輪のブレーキは効きも弱く、万一のロックのときも上手くバランスをとれば即座に転倒ということは防げる部分がありますので、教習所やの教習や初心者には曲がるときには後輪ブレーキだけを操作するように言う事が多いようです。
こういった事情から前後輪のブレーキが独立してしまい、その機能を使いこなすのは大変な技術を要するのです。四輪車のブレーキと比較しても難しいと思います。速度や車体の姿勢に応じて的確に前後輪のブレーキを操作するためにはかなりの訓練が必要になってくると思います。
こうした理由からか、最近では前後輪のブレーキが上手く配分されるコンビブレーキと呼ばれるシステムや、ABSを装備した車両も増えてきました。日常の使用ではコンビブレーキは安全にブレーキをかけるために非常に効果が高いように思います。ただ、後輪ブレーキ使用時に前輪のブレーキが効いてしまい、旋回時のブレーキは非常に不安定になりやすいのです。まっすぐ走るばかりの初心者向きのシステムのように感じました。
難しいブレーキ、ということはブレーキをキチンとかけることができない人も多い訳です。かけ過ぎてしまい転倒してみたり、転倒が怖くて全然かけられなかったり、理由は色々あるでしょうが四輪車などに比べ停まることが難しい乗り物であるように思います。特にとっさのブレーキに関してはコントロールが絶望的になることすらあります。
やはり、速度を落とすことや停止することが苦手な乗り物を乗るときに、車間距離などはどのように考えておくべきでしょうか。回避能力も低く、強いブレーキも難しい乗り物なのですから、それを忘れてはならないように思います。また、難しいからといって強めのブレーキを練習しなければ、いつまでもマトモにブレーキをかけられない人になってしまう恐れがあります。
7、転倒する乗り物
二輪車は転倒の危険といつも向かい合わせで乗っています。下手な操作をすればブレーキをかけるだけで転倒してしまいます。当然、事故などの時には転倒を逃れることは稀だと思います。
転倒すれば、運転者は路面に投げ出され強い衝撃にさらされます。つまり、何かあれば怪我をしやすい乗り物と言う事です。では、どんな怪我が多いのでしょうか?
転倒などの時、最も怪我をしやすいのは脚部(足)と言われています。このため、足の保護は十分に考えた服装でなければならないと考えます。
服装として身体の保護を最優先させると、皮の製品で身を包むのが一番有効と考えられており、オートバイのレースなどでは全身を革で覆う革ツナギの着用が義務付けられています。
一般の道路でお勧めしたいのが革製のズボン、いわゆる革パンって言われている物です。上半身が動きやすく、脚部を保護でき、防寒の性能も高く私自身も愛用しています。ただ、着たり脱いだりが非常に面倒なのが難点です。
しかし、道路を走行する二輪車の運転者で革製品を着用している人は少なく、かなり軽装な方が多いのが現実です。このため、何かの時には怪我をする人が多いのです。
二輪車の死亡事故の大半が頭部及び顔面の負傷によるものだということです。ヘルメットの選択も格好ばかりでなく機能的なことも考えていかなくてはならないでしょう。
夏場ともなると半袖、半ズボン、グローブ無し、サンダル履きで半キャップの方々がたくさん走り始めます。私もTシャツでバイクに乗ったことはありますが、確かに快適です。でも、何かの時にはどうなるのでしょう。私もバイクに乗り始めたときは、万一のことなど考えることも出来ませんでした。
そして、オートバイは四輪車などの免許を取得するまでの間乗る乗り物であったり、長年乗る方が少ない部分もあるので、初心者に対してよきアドバイスの出来るベテランが非常に少ないという現実もあります。
このため、多くのライダーの服装は若い運転者や初心者の知識で快適性や格好ばかり追求した服装になっていることが多いのです。
仮にこういった軽装のライダーが無謀な運転をして、自分に衝突したとします。そこで自分ではなく突っ込んできたライダーに万一のことがあれば、自分がその責任を負わされることになります。
軽装な服装は他の交通に対しても迷惑をかける危険があるということも、考えなくてはならないと思うのです。自分だけが快適なことだけ考えるのは、自ら意図せず他人の迷惑となることも気づいて欲しいものです。
8、雨天の走行
雨の日の運転は道路を走行する乗り物について、様々な障害となることが多いと思います。特に二輪車については、路面の状態が悪くなることにより、加速、減速、旋回の全ての行動がある程度の制約を受けることになり、転倒の危険は高くなってきます。
また、視界を確保する具体的なワイパーなどの装備や装置などがなく、四輪車などに比べて相当視界は悪くなります。また、体温を奪われたり、雨具や装備の関係で身体が動かしにくくなります。このような状況のためか、非常に体力の消耗は激しくなり、疲労しやすい状況になりやすいのです。
一番いいのは、雨天の走行をしないことですが、なかなかそうも言っていられません。出先で降られることもありますし、雨の走行が不慣れであるということも、安全運転をできなくなる要因であるかもしれません。
雨の降り始めは、バイクの運転者の速度が一時的に速くなってくるという説を唱えている人もいました。雨宿り場所や目的地に急ごうという心理が働くためだそうですが、そういう時も危険の度合いが高くなるでしょう。
1日くらいの行程でツーリングをする場合、雨具を持っていかないという人もいるようですが、その場でバイクを置いて電車などで帰ってくるような措置が出来ればいいのですが、雨具無しで乗り続けるのはこれも危険が高くなると思います。
以上の内容では特性についてはほんの一部しか語れていなかったと思います。また、時期を見て更新や内容の見直しなどしていこうと思っています。